すすきの十六夜
値上げ
南七条の小さなスナックで、ママが料金表を書き直していた。五百円の値上げだった。
「常連も?」 開店前に顔を出した、向かいのビルの清掃員が聞いた。 「常連から。毎日来るんだから」
男は脚立を押さえ、ママは壁の画鋲を抜いた。古い料金表の裏に、もっと古い料金表が重なっていた。
「俺が初めて来た頃は、これか」 「髪もあったね」 「それは料金に関係ない」
ママは新しい紙を貼り、脚立を下りた。 「嫌なら一日おきに来な」 「昨日は来てない」 「昨日は定休日」
その晩、男はいつもより一時間遅く来た。コートを脱ぐと、額に汗が光っていた。
「バス、やめた。歩けば二杯目まで飲める」 「一日おきにすればいいのに」 「家でも同じこと言われた」
ママは笑って、いつもの水割りを作った。濃くはしなかった。 代わりに、ストーブの前の椅子を引いた。
「帰りはバスにしなよ」 「その分、薄くして」 「値段は同じだよ」 男は少し考えて、椅子をストーブに寄せた。